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仲裁の日
弁護士 花水征一

日本仲裁人協会は、2005年12月、社団法人として正式に許可されました。これを祝い、新仲裁法が施行された3月1日を「仲裁の日」と定め、弁護士会館の講堂クレオにて記念式典が予定されています。

2003年には、多くの国で採用されているUNCITRALモデル法に準拠した新仲裁法が制定され、2004年3月1日から施行、仲裁人の研修・仲裁実務の研究を目的とする仲裁人協会の法人化と、日本における仲裁の活性化に向けた条件が徐々に整備されています。

しかしながら、仲裁が紛争解決手段として有効に利用される為の条件整備はまだまだ十分とは言えません。例えば、仲裁が最も利用されている国際取引紛争の分野において、シンガポール、中国、韓国といったアジア近隣諸国においては官民協力して仲裁の活性化に取り組んでおり、その成果は仲裁件数の増加として現れています。日本が仲裁後進国と言われることは、とりもなおさず法律後進国と言われるに等しく、極めて深刻な問題であると思います。

この機会に、日本における仲裁制度について考えてみたいと思います―何故日本では仲裁が利用されていないのか、仲裁は利用する価値の有る紛争解決手段なのか。

低い認知度

英国においては、既に1697年に仲裁法(Arbitration Act)が制定されています。他方、日本においてはドイツの1877年民事訴訟法に倣って1890(明治23)年に民事訴訟法が制定された際に、その第10編にあった仲裁手続法を第8編としてそのまま導入したものとされています。同法は2003年に全面改正され、新仲裁法が制定されました。この様に、日本においては、仲裁の歴史は浅く、これまで余り利用されていないのが現実です。「仲裁」との文言を代表的な辞典である広辞苑で引くと

争いの間に入り、双方を和解させること。仲直りの取持ち。法的には、当事者を直ちに拘束する点が、当事者の承諾を待って拘束する調停と異なる。「仲裁に入る」。

と記載されています。

日本における仲裁に対する一般国民の認知度は、この程度であると考えられます。しかし、これからは自己責任の時代となり、紛争に巻き込まれる危険は高く、しかもこの紛争を自ら解決しなければならなくなります。抱える紛争を最も適当な紛争解決手段にて解決するスマートさが求められる時代でもあります。この様な時代に対応するうえでも、紛争解決手段の1つである仲裁に対する認知度を高める必要性があると思います。

法律実務家の理解不足

法律実務家であれば、特に国際取引法の経験のある者なら法的な意味での仲裁を理解していると考えられます。しかし、仲裁、調停等のADR(裁判外紛争解決手段)を理解している法律専門家は、思いのほか少ないように思います。事情は仲裁の先進国である米国や英国でも同じようで、法律専門家がADRに対する理解がないとの批判を良く聞きます。仲裁人、調停人又はその代理人として、弁護士がこれらの手続に参加する場合、裁判と同じ方法で進めようとする弁護士が相当いることは確かなようです。例えば、筆者が経験した例では、訴状と全く同じスタイルで調停申立書を書く弁護士、これは調停の意味を知らない者のすることでしょう。

多くの紛争は、弁護士に相談されることが多いと思われますが、その際、弁護士には、当該紛争の解決に最も適当な手段を助言する義務があるでしょう。このように弁護士にとってADRの理解は必須不可欠の条件であると思われますが、残念ながら、法科大学院、研修所でもADRに割かれている時間は十分ではないように思います。

仲裁を利用するには、単にこれを認知しているのみでは足らず、これを十分に理解していることが必要であり、これは弁護士である筆者としても自覚すべき点であると考えています。

国の支援不足

「官から民の時代」と言われていますが、少なくともADRに関しては、逆に「民から官の時代」のような気がします。いや民が十分に機能していないのかもしれません。日本人は官に依存する国民性を有しており、これが、民間ADRが活性化しない大きな理由の1つとされています。国が民間のADR機関を支援することが活性化の決め手ともいえます。支援策としては、国が資金的な援助をすること、例えば韓国、シンガポールのように国の資金援助で国際仲裁センターを作ることも重要ですが、国(裁判所を含む)が自らADR機関を利用する等、ADRに対する信頼を国民の間に醸成する為の積極的な取り組みが必要でしょう。ADR促進法が施行され、信頼に足るADR機関が増えることを期待したいと思いますが、その為にも国の支援は是非とも必要です。

仲裁の特徴

仲裁の活性化の為の条件に関して見てきましたが、仲裁が、紛争解決手段として、有効に機能し得るものでなければ活性化する必要もないし、活性化されることもないでしょう。

少なくとも国際取引紛争解決手段としては、機能していますが、国内における紛争解決手段としてはどうでしょうか、これを検討するにはまず仲裁の特徴を知ることが必要です。

仲裁の特徴は、裁判とは異なり、私的な紛争解決手段であり、当事者の合意による手段に従い、当事者が選任した仲裁人が判断をなし、この仲裁判断に当事者は服する制度です。この仲裁の特徴をうまく利用すれば、当事者は紛争を迅速且つ低廉な費用で解決することが可能となります。又、仲裁は私的紛争解決手段であり、基本的には秘密に行われるものですから、秘密の保持が必要な紛争解決には有効でしょう。

この様に、仲裁は、国際取引紛争の他、秘密の保持が必要な紛争、専門知識を要求される紛争、少額紛争等その利用範囲は広いと考えられます。

仲裁は、その手続を当事者が決められますから、事案に最も適当な手続を決めることにより定型的な事件の迅速且つ低廉な解決方法としても有効に利用できます。例えば、ドメイン紛争における裁定制度は、厳密な意味では仲裁とは言えませんが、迅速且つ低廉に紛争を解決する制度として機能しています。

スマートな紛争解決

社会制度は複雑化し、個人の権利主張も強くなり、当然のこととして紛争に巻き込まれる危険性は高くなります。この様な時代にあって、交渉に失敗すれば、裁判をするか、費用と時間を考え裁判をあきらめる、といった単純な判断ではなく、紛争解決手段に関しても十分な検討をし、事案に応じたスマートな紛争解決手段を選択する必要があると思います。

「仲裁の日」には、仲裁、紛争解決手段の意義を考えるチャンスとしたいと考えています。


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