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ADRとは 〜「仲裁」「調停」の基礎知識
ICC国際仲裁裁判所副所長・弁護士
澤田 壽夫

ADRとは、Alternative Dispute Resolution(代替的紛争解決)の略語です。日本では、これを「裁判に代替する手続」と解して、「裁判外紛争解決」とも呼んでいます(このほうが、代替的手続というよりも分かりやすいでしょう)。代表的ADR手法としては、「仲裁」と「調停」があるとされてきました。

強制力のある「仲裁」

「仲裁」とは、裁判によらずに、当事者が選んだ仲裁人によって解決する手続です。紛争が起こってから相手方と相談して、「仲裁で解決しよう」と合意してもよいのですが、契約を結ぶにあたって、「将来この契約に関して紛争が生じた場合は仲裁で解決しよう」と決めることも広く行われています。

仲裁人は、もしも当事者が選ばなければ、裁判所などの機関(選任機関)の手助けを得て選びます。多くの場合、弁護士、裁判官経験者や法律学者が選ばれますが、それに限りません。 法律で手続がきっちり定められた訴訟とは違い、仲裁は、仲裁人が手続をかなり柔軟に決められるという特徴があります。仲裁人は、すべての当事者を公平に扱い、それぞれの主張を聞き、証拠を調べ、最後に「仲裁判断」(裁判の場合の判決に当たるもの)を書きます。もしもいずれかの当事者が仲裁判断に従わない場合、例えば、「乙は甲に500万円払え」と命じられているのに乙が払わない時には、甲は裁判所に助力を求め、執行判決を得て強制的に執行することができます。

仲裁には、「機関仲裁」と「非機関仲裁」(「アドホック仲裁」ともいわれる)があります。「機関仲裁」とは、専門の仲裁機関に頼って行う仲裁で、日本には、弁護士会の仲裁センター、中央建設工事紛争審査会、日本知的財産仲裁センター、国際商事仲裁協会、海運集会所等があります。これらの機関では、仲裁規則を定め、仲裁人の選任や、仲裁の場所の設定など、手続の進行を手伝うスタッフを持っています。 国際紛争解決のための国際機関としては、世界銀行付置の投資紛争解決国際センター、国際商業会議所付置の国際仲裁裁判所などがあります。 「非機関仲裁」とは、機関の手助けを得ないで、当事者自身で作ったり選んだりした規則に従って手続を進める仲裁で、主として大規模で複雑な国際仲裁に使われます。

「調停」の成功は紛争解決の意欲次第

「調停」は、紛争解決に助力してくれるよう、第三者に依頼する点は仲裁と同じです・しかし、調停人が調停案を提示しても、当事者が受け入れなければ、そこで終了し、当事者が裁判所から執行判決を得ることはできません。ですから、調停が成功するかどうかは、当事者が紛争解決への強い意欲を持っているかどうかにかかっています。 調停人は、多くの場合、当事者と個別に協議して、合意への接点を見つけようと努力します。争っている当事者同士が、その後顔を合わせずに無縁の状態でいることが難しい場合や、共通点を見つけて解決すればいずれの当事者も利益を得るのが明らかな場合には、調停が成功する確率が高いと言えます。そういう場合、調停人は、当事者のために積極的な将来計画作りを助けることができたということで、大きな満足を得ます。

「調停」「仲裁」のメリットを活かした「調仲」

「調仲」は、仲裁と調停の混合手続です。英語のmed・arbつまりarbitration(仲裁)とmediation(調停)の両方の要素が混在しています。(Xという調停人に試みてもらうが、うまくいかなければYに依頼して仲裁判断をしてもらう、というのは純粋な調仲ではなく「調停前置」です。)

典型的な調仲では、同一人が仲裁人としても調停人としても機能します。アメリカの労働紛争解決から始まったといわれますが、日本の仲裁は、med・arbあるいは調仲と呼ばれないとしても、実際は調仲であることが多く、紛争解決の優れた方法といえましょう。よい仲裁人を得れば、その人が調停人だったときに打ち明けられた知識によって仲裁判断が歪むということもなく、むしろ良い仲裁ができる場合が多いでしょう。調停前置で調停不調になった後に別人を仲裁人に起用して仲裁に移行すると、仲裁人に、事案・主張を再度理解してもらわねばならず、複雑な事件ほど費用が膨大になってしまいます。

外国では、仲裁をADRの一種と考えない傾向が顕著になってきました。紛争の解決方法を、強制可能な方法とそうでないものに分けると、仲裁は裁判と同じ範疇に入ります。そうでない方法、つまり調停をはじめとして、DAB(拘束力のない委員会決定)、ミニトライアル(決定権を有する経営者が、法律よりも営業的な見地から解決を模索する方法)等、裁判と仲裁を除いた手続をADRと分類するわけです。


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